建築あれこれ雑記帳 1998年7月
1ルームマンション考
1ルームマンションにおけるハイグレード&ローコストへの挑戦
筆者は学者ではなく建築士である。以下述べることは、独断に満ちた意見である。しかし、マンション経営をご希望の方に一読をお勧めします。きっとご参考になると思います。
推移予測
人口の減少と影響
政府予測では「西暦2014年に人口のピークを迎え、その後急速に減少する」としている。しかし、まだ時間がある等とは思わないほうが良い。お年寄りが頑張っているため、人口の減少が先送りされているだけで、若年層は既に減少を始めている。故に高齢化社会が叫ばれているわけである。
10年ほど前になるが、トヨタ自動車が「西暦2000年に自動車需要のピークを迎える」と予測していた。理由は、若年層の減少と普及の飽和である。飽和状態になると、新規需要ではなく「入替需要」となる上、最大の消費者層が減少し、需要の絶対数が減少する事になる。今日の自動車需要の落ち込みを見ていると、一足早くピークが来た感がある。
景気減退による一時的不況と、ピーク後の減衰には明らかに異なる現象が出る。
歴史を見てみる。衰退期を迎えると万遍なく衰退するのではなく、必ず「勝組・負組」ができる。つまり、生き残るグループと消えるグループに分かれる。自動車業界の状況はまさに「勝組・負組」の様相を呈しており、一時的不況ではないと思われる。

人口の減少がどのような状況を生み出すであろうか。
戦後、日本は「奇跡の復興」を果たした。高度成長期の秘密が、ボチボチ歴史として語れるときが来たようだ。
経済の発展に「需要」が不可欠であり、そのため「人口の集積」が必要となる。戦後の成長をこの人口の集積に秘訣があったとする学者が多いようだ。日本には「経済発展に必要な人口があり、技術開発や消費を支えた」といえる。

では減衰期を向かえ、どのように変化するのであろうか。日本各地で「万遍なく人口が減る」などとは思えない。日本が高度成長を謳歌していた頃、ヨーロッパは老大国といわれ、その凋落がささやかれた。あれから20年経過し、ヨーロッパ全土と日本経済が匹敵するほど経済力に差が付いたものの、依然としてヨーロッパは「豊かさ」を維持している。

人間の本能として、一度獲得した「豊かさ」を簡単に手放すとは思えない。豊かさ=経済を維持するため、人口の集積を維持すると思われる。つまり人口減少は「過疎の地域はもっと過疎になり、都市部は現状維持を続ける」と筆者は予想している。

ピークを過ぎたのは若年人口だけではない。自動車を例に述べたが、あらゆる分野で既にピークを迎えていると筆者は考えている。「長期不況」と思っているが、実は需要の飽和を迎えており、5年もすれば「あの頃はまだ良かった…」というかもしれない。少なくとも、建築の世界ではそれが言える。不況に喘ぐ建設業界では公共事業に望みをつなぐ声も多いが、新規工事が「次々発注される」等とは考えられない。例えば、学校なら「10校が廃止され、3校を新規統合する」といった建設需要しか出ないであろう。

民間においても、この2年あまり「リニューアル」が際立って増え、新規需要の激減をカバーしている。バブル時代の「スクラップ&ビルド」は死語となり、構造体の耐用年数がある限り繰り返しリニューアルを行うスタイルに移行している。ヨーロッパではリニューアル7に対し新規3の割合である。日本がそこまでいくかどうかは分からないが、5分5分にはなりそうである。これからは「不確定な将来への対応」を迫られる事になる。

無成長経済とコスト
本題に戻る。
若年層の減少は「ワンルームマンション」の需要減退を招くであろう。言換えるなら、「過当競争」を迎える事になる。過当競争に生き残るには、先に述べたように「人口の集積地に近い」という立地条件が絶対に必要となるであろう。ただ、それだけではない。

「経済が安定期(無成長)に入った」という認識に立って考えてみる。安定期はシビアに経済原則が優先される。例えば、近年の大阪の土地取引価格を見れば良く分かる。政府発表の路線価と3倍ほど乖離し、容積1種(土地面積に同じ)あたり30〜50万円で取り引き(梅田、難波といった特殊な地域を除く)されている。これ以上のコストで購入しても商業施設(収益物件)として収支が合わないからである。かってのように、不動産を「資産」として考えず、単なるビジネスの仕入れ価格と認識しているに過ぎない。見事なまでの経済原則である。資産形成としての「ワンルームマンション」では痛い目にあう時代に入ったと考えるべきであり、ビジネスとしてコスト感覚を持つべきである。

ワンルームマンションの借り手から見ても、シビアな状況である。終身雇用は既に崩れ、毎年の昇給が約束されているわけではない。それどころか、初任給で見る限り低下傾向にある。当然、財布を直撃する事になる。

ワンルームマンション事業からこれ見れば、賃料の値下がり(筆者の感覚ではこの1年で2割程度安くなっている)を意味する事になる。過当競争下では「古くなる」ことは脅威であり、右肩上がりの収入予想等はもってのほかである。逆に「当初賃料を何年維持できるか」が重要なポイントとなる。

筆者は「10年は最先端の建物」であることを念頭において設計を心がけている。変化の激しい時代故に志と一致しないことも多々あろうが、少なくともそれだけの気概は必要と思っている。当然「ハイグレードな建物」を目指すことになる。これは、単に内外装の豪華さを意味しているわけではない。間取りの充実、設備の先進性、未来指向といったものが必要となる。では、10年後はどうなるのか?未来学者でも正確に予想できないことを言い立ててみても無意味である。従って、「可能性を限りなく残しておくこと」を筆者は回答としている。このことは[技術的対応]で述べたい。

反面、賃料は下落傾向にある。収入以上の投資などできるはずが無い。そこには「限りないローコスト化」の求めが待っている。ハイグレード/ローコストを単に「矛盾する」と非難をしてみても始まらない。頭脳的挑戦の世界である。
最近、筆者は「建物グレードと賃料の因果関係」を調べてみた。いや、調べようとした。その答えは「借り手が決める」と、言うことであった。賃料には地域性があり、地域ごとに「相場」が決まっている。どんな良いもの(広さや設備)でも相場以上では借り手が付かない。また、相場内でも貧弱なもの、劣悪なものはもっと借り手が付かない。相場内で「どれだけハイグレードなものを提供できるか」が競争の決めてとなる。この場合のハイグレードは「借り手」が決めるものであり、一人よがりは許されない。借り手の要求、憧れといったものを先取りする必要がある。

続いて、収支計画について述べておきたい。
バブル時代「親子2代の返済計画」が流行った。「不動産投資は最大の資産形成」と考えられ、「採算より取得」するすることが重視されたためである。鏤々述べてきたように、こんな悠長なことがシビアな時代に許されるはずが無い。

事業計画(収支計画)は、投下資本(主に建設費)・収入予想(賃料)・借入金返済計画の3要素で決定される。収入予想(できる限りシビアに見る必要がある)によって、毎年の返済金額が決まる。返済期間は20年以内に押さえたいものである。収入と返済額から「投下資本」が逆算でき、その予算で「過当競争に生き残れる建物」ができないのであれば、計画そのものに無理があると考えるべきであろう。

地域の賃料相場調査→収入予想
↓ 収入から返済可能額を推定・投資額の検討
投資総額の確定
↓ 内容の検討・コストの検討
グレードの想定
↓ 過当競争下で勝利出来るのか検討
事業決定
不動産投資をビジネスコストと考える場合のプロセスを上図に示した。バブル時代には、初めに事業決定があり、建設費を出して、賃料を決めるのが一般的であった。世は様変わりしている。世間のバブルは終わっても、個人のバブルがなかなか弾けていない。

以上、推移予測を述べてきた。最後に、筆者の根拠の無い予想を述べておきたい。
ワンルームマンション=若者の図式がある。しかし、この図式が崩れるかもしれないと思っている。老人ホームはかって、姥捨山よろしく、辺鄙な場所が相場であった。それがだんだん都心部に近づく傾向にある。人口の集積は環境の悪化を招きやすい反面、人と人の触合い、生活の便利さ等がある。この便利さが必要なものは、若者だけではあるまい。お年寄りにとっても「便利さ」は大いに魅力であり、人との触合いは刺激である。お年寄りの一人暮らしが増えている昨今、ワンルームマンションの便利さが「住家」の対象になるのではないかと予感している。


技術的対応
これより具体論(技術論)に入る。

住環境の整備
ハイグレード化の第1歩は外から。
借り手が見て、興味をそそられることが第1歩になる。奇をてらう必要は無いが、ターゲットの好むデザイン指向は必要であろう。

エントランスは重要なポイントなる。貧弱なエントランスを見ただけで帰ってしまう「借り手」が結構いることに注意したい。
また、建物の豪華さだけが目玉ではなく、住環境も大きな要素となる。静けさが必要な人、何よりも便利さを求める人さまざまである。ただ、概して便利さが優先され、便利で環境が良ければなお良い。緑地は豪華さ豊かさの演出に不可欠である。1本の緑も無い総石張りの建物と、タイル貼でも緑に囲まれた建物のどちらが豊に見えるか考えてみれば良い。
駐車場の整備も必要であるが、大変悩ましい。筆者の体験でこんな事例がある。場所は十三駅から徒歩3分の距離である。大阪市の駐車場整備基準で所要台数は9台、ところが借り手は1台であった。あまりの便利さ故に自動車は不要なものであったようだ。行政の指導と、実需には関係が無い。立地条件における判断が必要となろう。
いずれにしろ、借り手が「中を見てみたい」と思わなければ、過当競争に入り口で負けてしまう。

好みを先取りする間取り
多くの行政で1戸あたりの「最低規模(多くは16u以上)」を決めている。この最低規模で借り手が付くとは思えない。規模の設定は「重要な戦略」で、競争に生き残る重要なポイントとなる。無成長時代を迎え、経済的余裕が減少したと言えども、一度味わった「豊かさ」が消えたわけではない。「より広くが」が当然人気となる。ただ、広すぎれば採算性に問題が生じる。このさじ加減が難しい。

かって「見た目が素晴らしく、住むと少し不便」が理想と言われた。これは、借り手が長く居着くと、入れ替えによる「賃料UPや敷金収入」が得られないことからきている。しかしこの考えはだんだんそぐわなくなっている。マンション事業がまったくの「借り手市場」となっており、退去者が出ると容易に次が決まらない傾向にある。また、豊かさの副産物として「潔癖なまでの清潔癖」があり、入れ替え時に徹底的なリフォームを要求され、敷金収入のうまみも消えてきている。さらに、入れ替えによる賃料UPなどあるはずも無い。むしろ事業の安定化には「安定した借り手」が必要となってきている。それだけに「長期間魅力的な部屋作り」が必要と言える。

個々の内容のについて述べたい。
下図をご覧いただきたい。これは当社推奨の、実績の多い間取りである。善し悪しの判断は皆様にお任せし、注意点を上げる。
[1住戸24uオール電化タイプ]
1. ワンルームマンションは一人暮らしを前提にしているが、若者には友達が多い。部屋に訪れる友人がいることを念頭に置く必要がある。

2. 賃貸面積は1住戸で決まるが、借り手が「広さ」を感じるのは「洋室」の面積である。かって6畳が相場であったが、今は8畳以上に設定するのが望ましい。
若者は豊かさの中で育っており「4畳半に共同トイレ」は、遠い昔のノスタルジアである。
洋室はベッド・イスの生活が中心となる。壁面にはコンピュータ関連機器、AV関連機器そして机本棚が並ぶであろう。壁面は重要な役目を持つ。従って、洋室に面してクロゼットがくることは、この壁面を奪うことになる。若者はリッチなのだ。

3. 洋室の広さを確保した上、1住戸の面積を押さえるのが、ローコスト化の第一歩である。ところがここでも「豊かさ」が確実に必要となっている。かってのように「バス・トイレ・洗面」一体型のユニットで事足りた時代は終わった。今時バス・トイレが一体では誰も借りてがつかない。分離が絶対条件である。

4. 当社推奨案では、バスを分離し、1m×1.4mの最小サイズ(コスト圧力からサイズの大型化はないと考える)を採用している。バブル時代、バスではなくシャワールームが提唱されたことがあるが、普及はしなかった。シャワーが基本であることに間違いはないが、日本人には湯船が必要なようだ。
脱衣については「廊下」で兼用するタイプが多い。ただ、友人来訪を前提に考えれば良い方法とは思えない。当社案では「脱衣・洗濯・洗面・トイレ」を兼用し、スペースの圧縮と有効利用を確保している。この案であれば、他人の前で脱衣する必要はない。

5. 脱衣・洗濯・洗面・トイレはまさに「多目的スペース」である。大便器前の空間は「洗面・脱衣」のエリヤとして共用する。来客中の用便はカーテンのクローズで対応できる。防水パン(洗濯機置場)は全自動の小型機になるであろうことから、64cm角のものを採用している。洗濯機の上は、脱いだ衣類の置場として利用できる。洗面ユニットは「朝シャン」に耐えるシャワーカランが望ましい。

6. 玄関には下足箱を装備する。上がったスペースは廊下であり、台所となる。台所と洋室はドアで区画できることがニーズとなっている。
(4〜6の項目は「設備」と密接な関係にあるので後の項で詳しく述べたい)
 
共用部と仕上げ
いきなり「住戸の間取り」に触れたが、共用部も大変大事である。大阪で最大手のワンルームマンション事業を展開している「K建設」は共用部分の整備清掃を売り物にしているくらいである。
年々、建築基準法が改正され規制緩和が計られている。昨年(平成9年)共同住宅の共用部分(全てではないが)が「容積対象から除外」された。

筆者注:容積とは
敷地面積を基準として、「その何倍まで延べ面積が可能か」と規定したものが「容
積率」である。例えば「第2種」と、言えば「敷地面積の2倍まで建設可能」と
なる。しかし、その容積にカウントされない「用途」も併せて定められている。


容積許容限度まで建物を建設することは、相対的に「土地コスト」を引き下げることになる。そのため、可能な限り「専有面積」を確保することに努め、共用部は屋外階段や外廊下(従来から容積にカウントされていない)といった構造にしてきた。
当然、風雨にさらされ「良好な環境」とは言いがたい。これが、規制緩和により「容積外」となったため、屋内階段や屋内廊下にすることができ、良質な環境の提供が可能にはなったが、コストUP要因にもなる。
幸いワンルームマンションでは廊下側に「採光」の必要がない。また、ファミリータイプのマンションでは「南側採光」が何より尊ばれるが、ワンルームマンションは勤務ないしは学業を中心としているため、日中はほとんど不在となる。
そのため、採光方位を気にする必要が無い。東西面からの採光にし、両側に住居が来るような「中廊下」をお勧めしたい。外廊下は容積に算入されないが、コストが不要であったわけではない。手摺その他で結構コストがかかっていた。廊下を両側から共用することで、幅員を広く取りなおかつコストダウンができる。

筆者注:廊下幅員の規定
建築基準法で「片廊下幅員1.2m以上」「中廊下1.6m以上」と決まってい
る。中廊下にすれば、辺長を半分にでき「廊下面積を大幅に圧縮」できる。

中廊下で注意することは「暗闇のトンネル」にしないことである。両端から充分に採光を確保し、良好な環境を確保する必要がある(廊下の排煙規定もあるので注意)。仕上げもエントランスに準ずる奇麗さが望ましい。住戸の排気ルートを中廊下に集中させると、住戸内居室空間に不要な凹凸(排気ルートを隠すため、梁型仕上げが必要となる)を避けることができ、居室環境の向上に繋がる。併せてコストダウンに繋がることも明記しておく。

階段の選択は「法規」との絡みが多く、専門家の判断を仰ぐ必要があろう。ただ、屋内階段のほうが環境確保に有効なことは言うまでもない。また、建設に際し、近隣協議が必要な自治体が多い。近隣協議をすれば必ず「プライバシー保護」の名目で、外廊下や屋外階段の「目隠し」を要求される。近隣の意を汲めば、違法な手段で目隠しをすることになる。そうなるなら、最初から「屋内共用部」にしておくほうがトラブルを避けられる。

エントランスの重要性は冒頭で述べた。共用部の重要性は仕上げだけではない、管理運営の項目で改めて述べるが、清掃管理が「建物グレード」を決定する大きな要素である。総石張りの豪華なエントランス廊下と言えども埃だらけではイメージダウンである。

内部の仕上げに触れておく。
先に、入居者の清潔癖に触れた。共用部の仕上げが耐久的であるのに比べ「住戸の仕上げは消費財」である。
入居者が入れ替われば、全面的なリフォームが必要となる。アトピーが騒がれ、埃を吸着しない「フローリング」が人気を博した。しかし、メンテナンスを考えればこれほど悲劇な建材はない。フローリングは傷つきやすく、補修はほとんど不可能である。

色彩も部屋毎に変えるといった「道楽」は止めたほうが良い。使い捨ての消費財と割り切り「いつでも補充可能な建材」で、どこでも対応可能な仕上げの選択が望ましい。「私のために内装が一新された」と、入居者が思うことが大事である。

床材の選択は難問題である。フローリングは人気ではあるが、メンテが困難であることに触れた。「木目」に人気があり、埃のたたない材料で、メンテが容易。かつ、上下音の削減と言う技術上のテーマを同時に解決するものでありたい。ウレタンバックの長尺塩ビシートがある。木目調で傷ついたところだけ、切り取り補修ができる。遮音性能もL50とまずまずである。コストはフローリングよりやや安い。フリーフロア(床上げ用下地構造)と併用すればなおよい性能が得られる。

外装は、耐久財である。内装とは根本的に違う。昔から、「建設費の2倍かかる」と言われてきたメンテナンス費用は無視できない。デザインに配慮しながら「ノーメンテ」を目指すことが大事なこととなる。
大規模な改修は15年毎に必要とされるが、それ以外に常日頃小さなメンテが延々と続いている。これを圧縮できるような設計上の配慮が絶対に不可欠である。
雨掛かりには最低「タイル貼」が望ましい、錆の出る建材の使用は避けるべきであろう。
設備のメンテも重要(これに付いては別項目で述べる)である。ローコストは建設費(イニシャルコスト)だけではなく、ランニングコスト(維持経費)にも目を向けるべきである。

構造体とバリヤフリー
仕上げにとかく目を奪われ勝ちである。しかし、コストで最も比重の高いのが「構造」である。設備がそれに続き、仕上げの比重が最も低い。

建築基準法で「3階以上に共同住宅がある場合は耐火構造」となっている。耐火構造には「鉄筋コンクリート造」と「鉄骨(耐火被服)造」がある。
税法で鉄筋コンクリート造が償却年数(俗に、耐用年数と言われる)60年、鉄骨造が40年となっている。あながちこの償却年数は間違いではなく、構造の特徴を良くあらわしていると筆者は考えている。
鉄骨造は「ガタ」が早く、特に幹線道路沿いの場所では振動騒音に悩まされることが多い。また、筆者の実験で、同じ建物を鉄筋コンクリート造と鉄骨造の2種類で設計し、ゼネコンに見積もりを依頼したことがある。その結果、鉄筋コンクリート造が「安い」との結論が出た。近年、鉄筋コンクリート造における「ローコスト研究」が進んでおり、予想通りの結果と言えた。

筆者は特別の事情が無い限り、クライアントに「鉄筋コンクリート造」を奨めている。以下、鉄筋コンクリート造を前提に述べる。
前出の当社推奨プランは「壁式鉄筋コンクリート構造」である。(鉄筋コンクリート造には「ラーメン構造」と2種類ある)

筆者注:壁式鉄筋コンクリート構造
名が示すように「壁」によって構成する構造体である。木造の「2×4工法」も
同じ考え方である。柱型や梁型と言ったものが無く、空間に邪魔物が無い。阪神大震災にも壁構造で到壊した建物はなく、強度に付いて定評を得た。
反面、構造上の制約も多い。
最大5層まで。
壁厚、壁量の規定がある。
最上層 壁厚15cm以上・壁量12cm/u以上
上部2〜4層 壁厚18cm以上・壁量15cm/u以上
第5層 壁厚18cm以上・壁量18cm/u以上
大空間の構成には不向きである。ワンルームマンションではそんなに大規模な空間にならないため、5階建て以内なら特徴を生かして使用できる。壁厚が厚いため、結果的に遮音性に優れる。

ラーメン構造
柱、梁で構成され大空間ができる。反面、柱型・梁型が空間に凹凸を作る。
両者のコスト比較であるが、必要最小限度の「壁量」で効果的に「壁配置」ができればラーメン構造よりコストダウンできる。当社推奨プランでは2住戸で1ブロックを構成する。最小限壁量、適切配置ができ、将来、2住戸を1住戸(2LDK)に変更できる余地を持つ。また、梁型を持たないため、部分的に床(スラブ:構造体)を下げることができる。


従来、コンクリートスラブをフラットに構成し、スラブ上に設備配管を行った。その上に床仕上げをするため、住戸内で床が上下する空間が主流であった。豊かさが普及するに連れ「福祉、環境」が大きなテーマとして重きを成してきている。「住む人に優しい住宅」のニーズである。なにもお年寄りに限ったことではない。若い人にも「フラット設計」が重視され始めている。障害物(床の上げ下げ)が無いと言う意味で「バリヤフリー」は大きな底流となりだした。

断面の構成
左図のように、壁式鉄筋コンクリートでは部分的にスラブを下げることが容易なため、配管スペースを仕上げ下部に設けることができる。

上下音の解消は「環境重視」から重要である。対応として、スラブを厚くする方法があるが、コストを増大する割に効果が少ない。できれば、図のように二重床(フリーフロア)を設けるほうが良い(併せて配管スペースとして利用する)。
音の問題を床で処理し、洋室の天井は設けない。天井の高い洋室はニーズであり併せてコストダウンに繋がる。なお、ラーメン構造では梁型があり、スラブの上下は容易でない。

階高(1層当たりの高さ)もコストを決める要因である。図の高さであれば、コストUP要因とはならず、設備スペースの確保もできる。この程度の高さはニーズの点でも欲しいものである。

システムの充実
10年間、最先端を走るためには「設備を含むシステムの充実」が不可欠である。仕上げは、入居者が変わるたびに更新されるが、設備はそうも行かない。それだけに初期の検討、投資が重要となる。
1. エネルギーの選択
エネルギーには「ガス」と「電気」とがある。いつの時代にもライバル同士。
ガスの安全性も向上し、それだけで優劣を決めることができない。しかし、電気だけで全システムを組めるが、ガスは電気の補助が無ければ全システムを組めない。
これはコストの面から圧倒的に不利である。事実、設計の立場から見ても、ガス電気の両者を敷地に引込み、建物内にルートを構成するより、「コストダウンにはオール電化」が間違いない。筆者は、以前からオール電化を採用している。
なお、災害復旧の立直りの速さは「阪神大震災」で証明済である。

2. オール電化
ガス併用で50kw以上、オール電化で100kw以上の引き込みには変電設備が必要になっている。ガス併用の50kwは厳密の守られるが、オール電化は「葵の印篭」で、100kwを越えてもまず変電設備を要求されない。よほど馬鹿でかくなければ、変電設備を必要としないためコストダウンとなる。それどころか、オール電化は「推奨金」が提供される。以下、オール電化で話を進める。

3. オール電化の目玉は「深夜電力」の利用にある。深夜電力の利用には2種類あり「深夜メーター」を併設する場合と、「時間帯別メーター」がある。
深夜メーターは電気温水器のみに適用され、引き込みも別(2ルート)となる。
時間帯別メーターは、マイコンにより料金が制御されるため、引き込みは1ルートで良い(コストダウン)。昼間の電気料金は割高になるが、深夜は全ての電気使用が「深夜料金」となり、格安となる。宵っ張りの多い若者には最適な料金システムと言えよう。

4. 給湯には「電気温水器」が必要となる。料金システムにより機種が異なるので注意したい。ワンルームマンション用としては、ケーシングの付いた150リットル・200リットルの2機種がある。室内に置けるよう化粧されており、ミニキッチン(台所流し)と並列で置けるよう工夫されている(メーターBOX等、屋外に置く場合は、別途リモコン装置が必要になるので注意)。

深夜電力用温水器は追い炊きができない。貯湯した量を使い切れば終わりである。危険性を考えれば200リットルの機種を選ぶべきであろう。時間帯別対応の機種は追い炊きができ、150リットルの機種で大丈夫である。使い残しは少ないほうが省エネであり、不足なら追い炊きすればよい。ローコストにもなる。
電気温水器を経ることにより「水圧」が下がる。三菱電機の温水器は「2次給水機能(水圧を上げる加圧機能)を持っているが、それ以外のメーカーはないので注意。
水と湯の水圧が異なると、ミキシングがうまく行かない。給水メーター以降に「減圧弁」を設け水圧調整に心がける必要がある。また、温水器の給湯は60℃以上で供給されるため、シャワー中の水圧変化は「大火傷」の原因になり兼ねない。シャワーカランにはサーモ付きを使用したい。
給湯先は、ミニキッチン・浴室・洗面ユニットとなる。

5. 浴室(バスユニット)に付いては先に触れたので省く。

6. ミニキッチンはユニット化された流し台である。サイズは、90cm・105cm・120cm・150cmの4機種がある。生活の便利さを考えれば120cmサイズ以上が望ましいが、コストとの絡みがあり90cmが多く使用される。
ヒーターにはプレートヒーター・シーズヒーター・IHヒーターとあるが、コスト面から圧倒的にプレートヒーターが利用される。この場合、100V仕様ではなく200V仕様を選びたい。100Vでは火力の点で難点がある。
冷蔵庫は、スペースを確保し入居者の自由にすることが望ましい。ただ、スペースの点で問題があり、ミニキッチンに組込むことが多い。ミニキッチン組込み型冷蔵庫は1ドアタイプが標準である。これは生活面で問題があり、2ドアタイプの組込みが望ましいが、松下電工以外では「オーダーメード」となるのでご注意願いたい。専用の排気ルートが必要。

7. 洗濯機置場は既に触れたので省く(若者の清潔癖で、コインランドリーがすっかりすたれた。)

8. 洗面ユニットはワンルーム用としてL600・L750の2機種がある。この選択もコストに左右される。ただ、若者生活嗜好として「シャワーヘッド」付きが望ましい。

9. 大便器は当然洋風となる。同室に洗面があれば、ロータンクに「手洗い機能」は不要であろう。ウオッシュレットは今や生活の必需品となりつつある。だから「付けろ」と筆者は言えない。若者の清潔癖は恐ろしい。入居時のリフォームでは便座カバーの取り替えは当たり前である。ウオッシュレットを付けていた場合、新品と取り替えを要求される可能性が大きいからである。ウオッシュレットは使い捨てにするにはとても高い商品である。

浴室と併せて排気ルートが必要。廊下への出口はミニキッチン排気ルートと平行させ天井点検口の統一に注意したい。
以上述べてきた設備は、配管によって有機的に結ばれる。効率の良い配置はコストの削減に結びつく、当社推奨のプランはよく検討されたものである。縦系統は2住戸1系統に纏めて考えている。なお、配管は工場製作の商品がある。製品そのものは高いが、現地での工程が大幅に削減され、労務費を加えたトータルコストが削減できる。

入居時に付いていた装備は基本的に「事業主のメンテ」となる。洋室の照明器具、カーテン類は決して装備しないことをお勧めする。

次に「未来指向」を含め電気設備系統に付いて述べる。
1. 照明器具。ミニキッチン・洗面ユニット・バスユニットには照明器具が組込まれている。台所、便所には照明が必要であるが、これらの管球メンテは「自己負担」であることを明確にしておく必要がある。洋室は、照明器具が取り付けられる用意だけしておく。

2. コンセント。若者の電化製品は豊富である。特に、60%の若者がコンピュータを持っており、その比率は今後も増えるであろう。周辺機器を含めこれだけで1kwの消費電力である。従来は「洋室に1回路」であったが、これではニーズに対応できない。

3. 洋室以外のスペースに様々な系統が錯綜する。これを現場で施工することは大変な労務費を要するが、天井に「排気ダクトスペース」を有しているので有効に活用し、「ユニット配線」で対応できる。これは工場で製作する「配線」で、現地作業は「おばちゃん」でもできる。材料費は高いがトータルコストで削減が可能。

4. 火災報知設備。消防の基準で必要になる。管理の上からも必要な設備である。ただ、従来の設備では、「警戒区域が300u」と、大きくどの部屋から警報が発しているのか分からない欠点があった。しかし、インターホン設備とシステムを併用すれば面白いことができる。

5. インターホン設備。従来の認識では考えられないほど内容が変わってきている。システムのコントロール機能を有していると言っても過言ではない。
・ オートロックシステムの操作機能がある(共用玄関のドアロック操作。今時常識の設備)
・ 火災報知器の発報を部屋別に知らせる事ができる。(管理室の操作盤に部屋名を表示)
・ 管理室と各室はインターホンで話ができる。
・ センサーその他を組込み可能で、有事を知らせることができる。また、管理室経由で「警備保障会社」に連絡も可能。
上記はオプションを含んでの話であるが、福祉・環境と並んで、将来「安全」が売
り物になる時代が来るであろう。その時有効な武器となろう。

6. 電話設備。最も対応の困難な世界。電話回路が開放されるようになったため、NTT以外が回路を売ることができる。そのため「料金」がバラバラとなり、ユーザーも選択に困惑している。今後は今以上に変化する分野である。アメリカのように「月極料金」が出だしており、24時間使い放しができるようになった。コンピュータにつなげは「電話機」など無くても話ができる時代を迎えている。電話そのものの概念が変わってきており、正確に未来を予測することは不可能と思われる。

話をするなら携帯電話があり、有線は必要ない。電話線は死語になり「通信線」と呼ばれるかもしれない。既に通信系での故障に対し、責任が明確ではなくなっている。電話線が多くの機器に接続されているため、故障原因の確定が困難になっているためである。そのため、通信系のメンテナンス契約をし、故障に対応している事業所ができている。
ワンルームマンションで今対応できることはかぎられている。住戸数以上の回線確保。ISDNへの対応くらいである。しかし、ISDNは個人の申し込みが原則であり、事業主がどうこうできない。

7. テレビ。電話に劣らず怪物である。広い意味で通信の一翼をになっており、今後が読みづらい。一つはCATVへの対応である。自治体ごとにCATV会社があり、広域対応をしていない。独占をしているくせに会社ごとに入会システム料金が異なり、共通性に欠ける。西宮市では1物件10万円で加入でき、マンション丸ごと加入でも負担は大きくない。しかし、1戸当たり5万円前後の会社が多く、戸数が多ければコストに跳ね返る。更に使用料金システムがバラバラで、ランニングコスト算定も必要となる。結局は、個別加入ができる対応をしておくことになる。

次に、衛星放送への対応である。BSだけではなくCSが稼動しだした。CSは双方向通信に不可欠なシステムだけに欠くことができない。これもコンピュータと結び有機的に利用される時代が来るであろう。アンテナは用意するが「個別加入」が原則と言える。
その他の設備として、空調がある。ワンルームマンションではオプションではなく、装備品である。能力は、台所を含めたものが必要である。

次に、メーターボックスの考え方である。メーターボックスは併せてパイプスペースともなっている。工事は順に行うので最小のスペースに収めることがきる。しかし、建物寿命に比べ設備寿命は短い。鉄筋コンクリート構造であれば、その寿命中に3〜4回の設備更新が必要となる。更新工事に必要なスペースを確保しておくことは「将来への担保」として重要である。住居内の設備に関しても時代の進歩・技術の進歩にあわせ更新の可能性を残すことが重要である。工事はできても更新不能な施工法の選択は慎むべきである。

管理運営
できた建物を良好に保つには「管理運営システム」の構築が必要である。日常の管理清掃だけではなく、定期点検も欠かせない。日常の管理清掃は清潔感を保ち、入居者にグレード感を与え、同時にメンテ費用の削減にも繋がる。定期点検を行い設備を良好に保つことは、設備寿命を長引かせる。当然、初期投資における材料の選定が延命に大きく作用する。清掃しやすい建材・点検しやすい環境・手入れの簡単な材料の選択が必要である。
管理運営は「共益費」で賄うが、入居者にとって、共益費も家賃の一部であることを忘れてはならない。効率の良い運営が望まれる。

以上、ワンルームマンションにおける注意点を述べてきた。今後、マンション運営を目指す方たちの参考になれば幸いである。

規制緩和
平成10年6月5日、建築基準法の大幅な改正が国会で可決された。
今まで法で基準を定めてきたが「性能の規定化」ができるようになった。これは革命的な出来事となる。いずれ緩和が緩和を呼び、例えば「耐用年数」を自分で設定できる時代がくるのではないかと期待している。定期借地権の土地にそれ以上の寿命を持つ建物を建設することはナンセンスである。法に照らし合わすことで判断してきたことが自主判断できる反面、責任重大である。ここでも激動の時代を迎えたと言える。建築関係者を含め、いっそうの努力が必要となった。
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